経営理念を2年前に社員と一緒に創ったとき、私は、経営者としての事業の方針や社員に望むこと、こうなりたいという夢、一緒にこうなってゆこうというビジョンを静かに熱く話しました。
77歳のパート社員Iさんがいました。私は、同友会で理念を創るときの宿題を社員にも出しました。彼は、PCができないので、手書きで用紙いっぱい書いて、書ききれないから裏にまで書いてきました。それを発表するときの彼は真剣そのものでした。彼は、幾度となく、「私は、社長の考えに賛成して最後までついていきます」と言ってくれました。その言葉は他の社員にもよい影響を与えました。
そうして社員全員で作り上げた理念は、一つとなって成長しだしました。理念を社員と共有することで、態度や言葉使いが変わり、雰囲気が良くなり、問題が生じた場合の対処を理念の原点に立ち返ってどうしたらいいのかを自分で考えて解決できるようになりました。顧客に明らかにすることによって、会社が何を考えているのか、どこに向かっていくのかが明確になり安心感と信頼感が生まれてきました。明らかに、その後の顧客は皆笑顔で訪れて下さるようになり、それを社員たちはとてもうれしそうに喜んでいます。
話しは戻りますが、77歳の彼は10年前に食道がんの大手術をしていました。しかし、とても元気に毎朝出社して、前もって計画した自分の業務を淡々とこなしていました。そんな彼が、今年に入ってから休みがちになりました。そして、先日、突然急逝したとの連絡が入りました。通夜に参列しましたが、会場に入りきらないほどの人々がいて驚きました。彼の人柄を証明していました。後日、ご自宅に弔問に伺い、奥さまとお嬢様二人からお話を伺いました。彼は、2年前に経営理念を創っているころの話を家族に全部話していました。社長はこんな理念を言っている立派な方だとよく聞かされ、娘の仕事の悩みも自分の職場の話を例に出して励ましたそうです。普段は職場では無口なほうで控えめだったから意外な印象でした。毎朝作業着に着替えるのですが、具合が悪いと午前中休み、午後からよくなったら出社すると着替えないでそのまま一日を過ごしていたらしい。亡くなる2日前も「今日仕事に行ったらこれをこうして…」と行くつもりでいたそうだが、血圧が下がっていたので病院に行くように奥様に言われ、病院に言ったら即入院。翌日亡くなられたとのこと。家族から「本当にいい会社で仕事をさせていただいて本人はとても幸せでした」と言われました。
社員が、経営者を信頼して家族に自慢気に話し、仕事にやりがいと生きがいをもって生涯を閉じた。そのようなご主人や父を誇りに思っている姿を見ることができました。 私は、とても大切な事を彼を通して学びました。それはまだ言葉ではうまく言い表せませんが、経営者として経営理念を創ってよかったなと改めて思いました。それが社員の人生を変え、その家族をも影響を受け、人を幸せに導くものだということを知りました。
経営指針を創る会8期卒業生 坂上 洋一氏(静岡支部)