「私たちは、理念のとおりに、日本の灯に残るローソクをつくっています。いい加減な仕事をして、お客様にがっかりされるのは嫌です」。目を真っ赤にした製造主任は、そう言って私に対峙しました。
繁忙期を控え、新製品の出荷が間に合わない状況に、「効率を優先させて、少しでも生産量を増やすことはできないか」と、止むを得ずお願いをしたところ、冒頭の応えが返ってきました。「しまった」と、後悔しましたが手遅れです。
社員には、理念、理念と繰り返し口に出すばかり。自らの判断や行動が、理念と乖離したものであるという現実に愕然としました。
同時に、富士宮支部の竹内氏が、以前に仰せられた、「経営者も、社員も、みんな同じ存在である」という言葉が思い起こされました。自らのつくったモノやサービスが誰かのためになり、やがては世の中をよくしていく。これこそが、人が働く意義であり、その仕事を通じてたった一度の人生を充実させていくことにおいて、人は皆等しい存在である。数年間、消化不良だった言葉が、ようやく腑に落ちたように感じました。
「創る会」に参加したのは、ちょうどその頃です。主任の矜持から、理念の重さを改めて認識することができ、それが体の一部となるまで理解しなくてはいけないと考えたのが入会の経緯です。
当時、私たち、東海製蝋には、およそ二十年前に創られた理念が在り、先に述べたとおり、私たちの羅針盤であり続けていました。初めて読んだ「労使見解」で、社員に対する深い愛情に触れ、これまでの人生になかった大きな感動を受けました。同じ悩みを抱え、何とかしたいと参加してくる会員や先輩との議論。何より、社員一人ひとりの顔を思い浮かべながら、理念の根底に流れるフィロソフィーと向き合った時間は、その後の価値観を築く上で、大変重要なものでした。
今日も、元気よく出社する社員みんなが、笑顔で仕事に取り組めているだろうか。社会と社員を繋ぐことのできる製品やサービスを創り出せているだろうか。理念が判断基準になっているだろうか。終わることの無い問いかけを繰り返します。逃げ出したくなる時もある、大きな責任ですが、これをコツコツと果たしていくことが、中小企業の経営者の仕事であり、最大の喜びであるのだと考えています。
経営指針を創る会3期卒業生
阿久澤 太郎氏(富士宮支部)